2007年のMoto GPは、ドカティが見せた異次元の加速で幕を開けた。
圧倒的な加速のマシンを、初戦から難なく手なずけてしまったケーシー・ストーナーは、5年連続王者のロッシからのプレッシャーに動じることもなく、快走を続けていく。
目次
Moto GP 2007年の見どころ
先ず見て欲しいのが第一戦。排気量が990ccから800ccに引き下げられた初戦なのだが、ドカティの圧倒的なパワーは一見の価値あり。まるでドカティだけが990ccのまま走っているような圧倒的な加速だ。
他のメーカーの衝撃は相当なものだったはず。2007年の前半は「いかにしてドカティに追いつくか」という展開となった。
それに加えて、前年までは性能にムラがあったブリヂストンタイヤが大きく改善され、上位を独占するようになっていくのも見逃せない。やはり日本人たるもの、フランスのミシュランより日本のブリヂストンを推したい。
このドカティとブリヂストンのアドバンテージを最大限に生かしたのが、Moto GPデビュー2年目のケーシー・ストーナーだ。
前年のデビュー戦から、新人とは思えない走りをしていたストーナー。特にスタートの上手さはピカ一で、予選の意味が無いと思えてしまうほどだった。しかし決勝では転倒が多く、実績を出せないでいた。
そのストーナーが、ドカティのワークスマシーンを駆り、王者ロッシのプレッシャーに全く動ぜず、転倒も全くせずに、淡々と勝利を重ねていく姿は末恐ろしいほどだ。
かつてのライバルである、ビアッジやジベルナウには効いた「プレッシャー作戦」が、ストーナーには効かないと悟ったロッシは、中盤戦以降、真っ向から勝負を挑んでいく。その変化にも注目して欲しい。
それとストーナーに必ず寄り添っている奥様、アドリアーナにもご注目。この年の1月、ストーナーが21歳、アドリアーナは17歳か18歳の時に結婚したばかりのこの女性。もともとストーナーのファンで、14歳でストーナーと知り合い、16歳のときに交際を始めたそうな。とてもかわいいですよ。
ストーナーが1戦ごとに強くなった2007年シーズン
2007年のMoto GPは、ケーシー・ストーナーが1戦ごとに強くなっていったシーズンだと言える。
初戦では圧倒的な加速で、他のメーカーを絶望の淵に叩き込んだドカティだが、僅か数戦後には他のメーカーもパワーアップを実現し、ドカティの優位性はそれほど長くは続かなかった。
しかしポイントの推移を見てみると、ストーナーが圧倒的な強さを見せたのは、ドカティが優位であった序盤ではなく、むしろ中盤以降であることが良く分かる。
このグラフは、1位のストーナーから、8位となった前年チャンピオンのヘイデンまでのポイント推移をまとめたものだ。
これを見ると、ストーナーが他のライダーを急速に引き離していったのは、第9戦のオランダGPぐらいからと分かる。
因みにストーナーが獲得した順位はこのようになっていた。
QAT | SPA | TUR | CHN | FRA | ITA | CAT | GBR | NED | GER | USA | CZE | RSM | POR | JPN | AUS | MAL | VAL |
1 | 5 | 1 | 1 | 3 | 4 | 1 | 1 | 2 | 5 | 1 | 1 | 1 | 3 | 6 | 1 | 1 | 2 |
この順位を見るとさらに面白いのだが、ストーナーは決して後半に優勝を重ねたわけではない。前半での優勝が5回、後半での優勝も5回だ。
これはどういうことか?
鍵となったのは安定性だ。
2位のペドロサも、3位のロッシも年間で3回リタイヤしている。しかしストーナーは全て完走だ。これはマシン性能やタイヤ性能が原因ではない。その証拠に同じマシン、同じタイヤのカピロッシは、シーズンを通して4回リタイヤしている。
やはりストーナーのライディングが卓越していたのだ。卓越したライディング・テクニックに、転ばない安定性を兼ね備えた2007年のストーナーは、本当にすごかった。
レース中の走りはもとより、レース後のインタビューを見てもそうなのだが、なんだか余裕を感じる。実際に「もっと速く走れた」ということも多かったらしい。
ストーナー、まったくもって凄いライダーだ。
2007年 ライダーズランキング
さて、2007年の総合順位はこの通り。ストーナーは2位のペドロサに125ポイントもの差をつけてしまった。
順位 | ライダー | チーム | ポイント |
1 | Casey STONER | Ducati Marlboro Team | 367 |
2 | Dani PEDROSA | Repsol Honda Team | 242 |
3 | Valentino ROSSI | Fiat Yamaha Team | 241 |
4 | John HOPKINS | Rizla Suzuki MotoGP | 189 |
5 | Marco MELANDRI | Honda Gresini | 174 |
6 | Chris VERMEULEN | Rizla Suzuki MotoGP | 179 |
7 | Loris CAPIROSSI | Ducati Marlboro Team | 166 |
8 | Nicky HAYDEN | Repsol Honda Team | 127 |
9 | Colin EDWARDS | Fiat Yamaha Team | 124 |
10 | Alex BARROS | Pramac d'Antin | 115 |
11 | Randy DE PUNIET | Kawasaki Racing Team | 108 |
12 | Toni ELIAS | Honda Gresini | 104 |
13 | Alex HOFMANN | Pramac d'Antin | 65 |
14 | Carlos CHECA | Honda LCR | 65 |
15 | Anthony WEST | Kawasaki Racing Team | 59 |
16 | Sylvain GUINTOLI | Dunlop Yamaha Tech 3 | 50 |
17 | 中野 真矢 | Konica Minolta Honda | 47 |
18 | 玉田 誠 | Dunlop Yamaha Tech 3 | 38 |
19 | Kurtis ROBERTS | Team Roberts | 10 |
20 | Roger Lee HAYDEN | Kawasaki Racing Team | 6 |
21 | Michel FABRIZIO | Honda Gresini | 6 |
22 | Fonsi NIETO | Kawasaki Racing Team | 5 |
23 | Olivier JACQUE | Kawasaki Racing Team | 4 |
24 | Kenny ROBERTS JR | Team Roberts | 4 |
25 | 青木 宣篤 | Rizla Suzuki MotoGP | 3 |
25 | 伊藤 真一 | Pramac d'Antin | 1 |
コンストラクターランキングは33年ぶりに日本車以外が獲得
次にバイクメーカーのランキング。 ドカティが33年前のMVアグスタ以来となる日本車以外での年間勝利を獲得した。
順位 | コンストラクター | ポイント |
1 | DUCATI | 394 |
2 | HONDA | 313 |
3 | YAMAHA | 283 |
4 | SUZUKI | 241 |
5 | KAWASAKI | 144 |
6 | KR212V | 14 |
チームランキングもドカティの圧勝
最後にチーム別のランキングだ。こちらもドカティファクトリーの圧勝だ。
順位 | チーム名 | ポイント |
1 | DUCATI MARLBORO TEAM | 533 |
2 | REPSOL HONDA TEAM | 369 |
3 | RIZLA SUZUKI MOTOGP | 368 |
4 | FIAT YAMAHA TEAM | 365 |
5 | HONDA GRESINI | 297 |
6 | PRAMAC D'ANTIN | 181 |
7 | KAWASAKI RACING TEAM | 176 |
8 | DUNLOP YAMAHA TECH 3 | 88 |
9 | HONDA LCR | 65 |
10 | KONICA MINOLTA HONDA | 47 |
11 | TEAM ROBERTS | 14 |
2007年のMotoGP おススメのレースはこれだ
それでは、1戦ごとに振り返ってみたい。
★はお勧めのレース、★★は見逃せないレースだ。
第1戦 カタールGP ★
990ccから800ccに排気量が引き下げられた初GPは、ニューマシーンお披露目の場として、大きな期待と共に始まった。
その中でケーシー・ストーナーが見せたドカティの圧倒的な速さが、見るものの度肝を抜いた。
第2戦 スペイン ヘレスGP
予選は大接戦! 上位15台が1秒以内にひしめく状況で、かなりの混戦が予想された。
その予想通り、決勝は1周目から激しく順位が動いたものの、中盤からロッシが徐々にリードを築き、01年以来であった「5戦連続勝利ナシ」という不名誉な記録に終止符を打った。
第3戦 トルコGP ★
全てのライダーの走りがアグレッシブで、多くのパッシングで接触が起こるという、やたらとテンションが高いレース。
これほど接触が多いレースも珍しい。
結果は「ブリヂストンの日」と呼べるほど、ブリヂストン車の圧勝。
このレース以降、ブリヂストンのスペックは確実に一段上がった。
第4戦 中国 上海GP
前戦で圧倒的な速さを見せ、一気に優勝候補となったケーシー・ストーナー。
「ストーナーを止めるには銃が必要だ」と言ったロッシは、予選からターゲットをストーナーに絞る。
しかし当のストーナーは、そんなプレッシャーをものともせず、王者ロッシが背後に付いても全く動じない。セテ・ジベルナウにはあれほど効いた、ロッシの「プレッシャー作戦」が、僅か21歳のストーナーには全く通じないのだ。
困ったロッシはストーナーを攻略すべく、ありとあらゆる策を打っていくのだが、、、
第5戦 フランス ル・マンGP ★
目まぐるしいバトルが繰り広げられる前半から、意地悪な天候に翻弄される後半まで、1レースに3レース分くらいの展開が詰まっている。
天候を味方に付ける者、大きな賭けに出る者、、、、それぞれのライダーがそれぞれの思惑で挑んだレースは、完走12台、リタイヤ7台というサバイバルレースとなっていった。
第6戦 イタリア ムジェロGP
大接戦の前半から抜け出したロッシが、最高の走りで快勝。
ドカティとブリヂストンタイヤが、圧倒的な性能を見せていた過去数戦とは違い、ロッシのマシンとミシュランタイヤの両方が改善してきているのが見て取れ、開幕からの流れが変わり始めたのが感じられる。
第7戦 スペイン カタルニアGP ★★
レース後半、 ストーナーが王者ロッシと堂々と渡り合う圧巻の走りを見せる。
ストーナーの冷静さ、戦術、テクニックを備えた走りに、この若者には一体どれほどの才能があるのかと、驚きを隠せない。
ストーナー、ロッシ、ペドロサの上位3人のバトルのうち2人がデビュー2年目というのも驚きだし、上位10台中7台がブリヂストンであるのに、3位中2台はミシュランというのも印象深い。
見逃せないレース!
第8戦 イギリス ブリティッシュGP
ウェットからドライへと変わっていく、難しい環境下でのレース。
ライダー同士のバトルよりも、如何にタイヤを持たせるか、消耗して滑り出したタイヤで、如何に走り切るか?というレース展開となった。
シビアな状況の中、ミシュランとブリヂストンの差が如実に表れたレースでもある。
ストーナーはこの難しいコンディションに見事に対応し、自身が一流のライダーであることを証明した。
第9戦 オランダ アッセンGP
ランキング首位のストーナーは、1周目から2位に1秒の差をつけて、難なく必勝パターンに持ち込んだ。
一方でランキング2位のロッシは、好敵手のカピロッシに阻まれ、9位を脱するのに3周も費やしてしまうが、そこから怒涛の追い上げが始まった。
第10戦 ドイツGP
左コーナーばかりのザクセンリンクでの一戦は、気温が上がり、タイヤ・マネジメントが難しい戦いとなった。
この状況に上手く対応したミシュラン勢が好調。また次戦に母国GPを控えた、アメリカ人ライダーの好走も目を引いた。
第11戦 アメリカGP
前戦で好調だったアメリカ人ライダーへの期待で幕を開けたアメリカGPだが、1周目第2コーナーでヘイデンとホプキンスの2人のアメリカ人ライダーが接触してしまったことで、大きく流れが変わっていく。
波乱の幕開けをものともせず、予想を上回るペースを刻み続けるストーナーに食らい付いて行ったのは、゛レインマスター″ことバーミューレンだった。
第12戦 チェコGP
ブルノでのチェコグランプリは、ケーシー・ストーナーの一人舞台だった。
前戦の母国アメリカGPで無念の結果となった2人のアメリカ人ライダーが会心の走りを見せたものの、全く歯が立たなかった。
第13戦 イタリア・ミサノGP
14年ぶりにMotoGPが開催されたミサノサーキット。
ロッシが育った街から僅か10kmというまさに地元のサーキットで、地元ファンの期待を一手に集めたロッシだったが、僅か5周でリタイヤしてしまう。
一方で絶好調の走りを見せたのがスズキ勢。バーミューレンとホプキンスが揃って、首位のストーナーを追う展開となった。
第14戦 ポルトガルGP ★
例年名勝負が繰り広げられるポルトガルGPは、2007年も好レースが展開された。
5位以下になると、2年連続の無冠となるロッシ。不振を打開すべく、134周もの走り込みをしたヘイデンが奮闘した決勝は、ロッシ、ヘイデン、ペドロサ、ストーナーが鎬を削る争いとなった。
第15戦 日本GP ★★
ストーナーが何位であろうと、ロッシより前でゴールすれば、ストーナーの年間優勝が決まるという、いわば一騎討状態での開催となった日本グランプリ。
決勝前に降った雨がコースに残っていて、乾いていく路面に対応するライダーの判断力が試された。
難しい状況下で、普段は殆ど判断ミスをしないロッシとストーナーが、細かなミスを重ねていく。
そして誰もが想像しなかった形で、ストーナーの年間優勝が決まることとなった。
第16戦 オーストラリアGP
ストーナーの凱旋レース。
ストーナーはフィリップアイランドが得意ではないが、世界チャンピオンを祝う観客に後押しされ、文句のつけようのない走りで、故郷に錦を飾った。
これに迫ったのは、フィリップアイランドを得意とするヘイデンだったが、レース後半でエンジントラブルでのリタイヤとなってしまった。
第17戦 マレーシアGP
マレーシアGPは、序盤から高速で周回を重ねるストーナーに、4位までのライダーが追走し続けるという、ある意味2007年シーズンを振り返るような内容となった。
エントリーしたライダー全員が、一人のリタイヤ、失格、欠場者も出すこと無く完走するという、非常に稀なレースでもある。
第18戦 バレンシアGP
2007年最終戦は23万7千人がサーキットに押し掛けるという、一大イベントとなった。
その注目を集めたのは、地元ライダーのダニ・ペドロサ。
この一戦で優勝すれば、あのロッシを抜き、年間ランキング2位に上がれるかもしれない。
ペドロサは地元の期待に応え、ポール・ポジションから一気に勝負をかけていった。
2008年のMotoGPはどうなる?
もう12年も前のことを「どうなる?」と書くのもおかしいのだが、2007年に急成長したストーナーとペドロサ。それに対抗するロッシ。そして、地道ながらもステップアップしてきたホプキンス、バーミューレンらが2008年どう動くか(動いたか)と考えると、12年経った今でも、とても楽しみに感じる。
また、今期16戦くらいからチラホラ聞こえてきた、ロレンソ、ドビチオーゾなどの名前にも触手が反応するし、ブリヂストンとミシュランの開発競争にも興味が尽きない。
2005年のように、ロッシ1強も悪くは無いが、やはりレースは2006年のような混戦が面白い。
2007年は混戦にはならなかったものの、その分ストーナーの才能の高さに心躍る年だった。
さて2008年、誰がストーナーを崩すか(結果は知っているけど)、どう崩すか(これは知らない)、とても楽しみだ。