目まぐるしいバトルが繰り広げられる前半から、意地悪な天候に翻弄される後半まで、1レースに3レース分くらいの展開が詰まっている。
天候を味方に付ける者、大きな賭けに出る者、、、、それぞれのライダーがそれぞれの思惑で挑んだレースは、完走12台 リタイヤ7台というサバイバルレースとなっていった。
目次
ル・マンGP レース前のTips
開 催 日 : 2007年5月20日
コンディション : ウェット
気 温 : 13℃
路 面 温 度 : 16℃
2006年のル・マンGP
2006年のル・マンは、先頭を走るロッシが、残り7周でまさかのマシントラブルに見舞われたことで、既に決していたかに思われた戦況が一気に動き出したのが印象的なレースだった。これによりレース結果だけでなく、年間ランキングの流れまでが大きく変わっていった。
1位 メランドリ、 2位 カピロッシ、 3位 ペドロサ
ウェットレースなのに、スリックタイヤでスタート
各車がグリッドに付いた段階で、小雨が降りだしていたが、全車スリックタイヤでスタートしている。
この後、雨はレース全般を通じて、少しずつ強くなっていき、レインタイヤ車に乗り換えるタイミングの見極めが難しい状態となっていった。
フォンシ・ニエトが代理出場
前戦の上海GPで負傷したオリビエ・ジャックの代役として、2003年まで250ccクラスに参加し、その後WSBに活躍の場を移していたフォンシ・ニエトが出場した。
この日のレースは彼にとって世界GP出場100戦目で、MotoGPクラスデビュー戦という、記念すべき一戦となった。
ル・マンサーキットの概要
コース幅 : 13m
コーナー数 : 右9 左4
最長ストレート : 450m
決勝レース周回数 : 28
総走行距離 : 117.04km
ル・マンGP 決勝のグリッド
Row | Grid | Rider | Team | Time |
1 | 1 | Colin EDWARDS | Fiat Yamaha Team | 1'33.616 |
2 | Casey STONER | Ducati Marlboro Team | 1'33.710 | |
3 | Carlos CHECA | Honda LCR | 1'33.859 | |
2 | 4 | Valentino ROSSI | Fiat Yamaha Team | 1'33.875 |
5 | John HOPKINS | Rizla Suzuki MotoGP | 1'34.102 | |
6 | Toni ELIAS | Honda Gresini | 1'34.125 | |
3 | 7 | Nicky HAYDEN | Repsol Honda Team | 1'34.247 |
8 | Randy DE PUNIET | Kawasaki Racing Team | 1'34.318 | |
9 | Marco MELANDRI | Honda Gresini | 1'34.360 | |
4 | 10 | Dani PEDROSA | Repsol Honda Team | 1'34.412 |
11 | Sylvain GUINTOLI | Dunlop Yamaha Tech 3 | 1'34.507 | |
12 | Chris VERMEULEN | Rizla Suzuki MotoGP | 1'34.574 | |
5 | 13 | Alex BARROS | Pramac d'Antin | 1'34.817 |
14 | 中野 真矢 | Konica Minolta Honda | 1'34.834 | |
15 | Loris CAPIROSSI | Ducati Marlboro Team | 1'34.903 | |
6 | 16 | 玉田 誠 | Dunlop Yamaha Tech 3 | 1'35.346 |
17 | Alex HOFMANN | Pramac d'Antin | 1'35.578 | |
18 | Kenny ROBERTS JR | Team Roberts | 1'35.681 | |
7 | 19 | Fonsi NIETO | Kawasaki Racing Team | 1'36.312 |
ル・マンGP レースの経過
ホールショットは、ストーナー。これにホプキンスとロッシが続く。
ホプキンスは5番グリッドから一気に3位に上がる。一方で、PPのエドワーズはスタートに失敗し、17位まで落ちてしまう。
ロッシは直ぐにホプキンス、続いてストーナーをかわして1位に上がる。ストーナーはロッシに追走するが、ホプキンスは付いて行くことが出来ず、ロッシとストーナーだけが早々にトップ集団を形成する。
ホプキンスはトニーエリアス、カルロス・チェカ、アレックス・バロスに次々にパスされ、6位に落ちる。バロスは13番グリッドスタートながら、一気に5位に上がっている。
バロスがトニーエリアスをかわし4位に上がる。
ヘイデンは9位、ペドロサは、なんと15位を走行している。
コースの後半セクションでは、雨の降り方が少し強く、ウェットになりつつある。
2周目
バロスがチェカをかわし3位に上がる。
母国グランプリながら11番グリッドからスタートとなったギュントーリは、1周目終了時点で7位まで上がり、2周目でメランドリ、エリアス、チェカとパスして4位に上がってくる。
レインタイヤの準備で、ピットがあわただしい。
3周目
フランス人ライダーのドプニエがギュントーリに続く5位に上がる。
ロッシが差を開き始める。
バロスがストーナーをパスし、2位に上がる。
路面には水たまりが出来てくる。
ストーナーはペースが上がらずギュントーリとドプニエにプレッシャーを掛けられている。やはりドカティでの初ウェットは難しそうだ。
ドプニエがギュントーリをパスし、4位に上がる。フランス人同士のバトルに、会場は一気にヒートアップする。
ストーナーが、ドプニエ、ギュントーリ、メランドリにパスされ5位に落ちる
4周目
バロス、ドプニエ、ギュントーリ、メランドリ、ストーナー、チェカの6台が2位集団を形成している。
18位を走行していた、エドワーズがギャンブル。レインタイヤ車に乗り換える。これが不幸の始まりとなった。
ペドロサがスピードに乗り始め、2周の間に順位を15位から8位まで上げている。
ドプニエがバロスをパスし2位に上がる
5周目
ロッシのアドバンテージが無くなり、1位から12位の玉田までがほぼ一列の状態になる。
ペドロサがさらにペースを上げ、メランドリをパスして6位となる。10番グリッドスタートで、1周目は15位であったのが信じられない、猛烈な追い上げ。
6周目
ドプニエがロッシをパス! 続いてギュントーリもロッシをパス! トップ2台がフランス人となる。あまりにドラマチックな展開!!
さらにギュントーリはドプニエをパスし、トップに立つ。ダンロップ車がトップという殆ど記憶にない状態になる。
ペドロサがストーナーをパスし、5位に上がる。
十数台が混走しているような状態で、順位把握が難しい。
ドプニエがギュントーリをパスし再度トップに上がる。
ロッシがコーナー立ち上がりで体勢を僅かに崩した隙に、ペドロサ、ホプキンス、バロス、チェカの4人に一気に抜かれる。
ロッシをパスした直後にチェカが転倒リタイヤ。
かなり状況が分かり難いので、7周目終了時点でのトップ11を整理する。
順位はドプニエ、ギュントーリ、ペドロサ、ホプキンス、ロッシ、メランドリ、ストーナー、バロス、カピロッシ、玉田、ヘイデン
1位のドプニエと11位のヘイデンのタイム差は3.3秒しかない!
8周目
ホプキンスがペドロサをパスし3位に、更にギュントーリをパスし2位に上がる。
ホプキンスがギュントーリとペドロサをパスし2位に上がる。
このころには、路面がウェットになってきており、いつピットに入るかを探っている状態。おそらくライダーの脳裏には、フィリップアイランドの中野のようにはなりたくない、という思いが巡っているのだろう。
2位を走っていたギュントーリがハイサイドで転倒(幸いレースには復帰し、ピットまで走行し、レインタイヤマシンに交換できた)。
2位のギュントーリがピットインし、レインタイヤに交換するが、それ以外の上位ライダーはピットインしない。
トニー・エリアスが転倒する。
エドワーズが周回遅れとなる。エドワーズは早めにレインタイヤに交換したが、思ったほど雨脚が早くならず、タイヤを消耗してしまっている。
首位を走っていた、ドプニエが転倒リタイヤ。フランスの熱狂が一気に冷める。
カピロッシ バーミューレン ヘイデンなど、中位は続々とピットインし、レインタイヤに交換する。
9周目
この時点での先頭はホプキンス。
上位の5台 ホプキンス メランドリ ペドロサ ロッシ ストーナーがピットイン。
タイヤ交換後の順位はホプキンス メランドリ ペドロサ バーミューレン、ストーナー ロッシ
11周目
1周前にタイヤ交換していたバーミューレンが、一気に1位に上がる。2位はホプキンス。先頭2台がスズキとなる。
メランドリがホプキンスをパスし2位に上がる。
この時点でもトップ10が4秒以内で走行している。
13周目
ストーナーがヘイデンをパスし6位に上がる。
雨量が増えてくる。
ロッシがホプキンスをパスし3位に、ストーナーがペドロサをパスし5位に上がる。
コーリンが再度ピットインし、消耗したレインタイヤを交換。PPスタートのコーリンは見るも無残な状態である。
14周目
ヘイデンがペドロサをパスし5位に上がる。
4位を走っていたホプキンスがコースアウトし、8位に落ちてしまう。ホプキンスの脱落で、4位に上がったストーナーがロッシに近づいている。
7位のホフマンがペドロサをパスし6位に上がる。
15周目
雨が本降りになる。
2位のメランドリが1位のバーミューレンに、4位のストーナーが3位のロッシにそれぞれ迫ってくる。2位と3位の差は5秒。
16周目
ストーナーがロッシを狙うが、ウェット路面で無理が出来ない。歯がゆい感情が走りに出ている。
エドワーズが2周遅れとなる。ああ無常。
17周目
ロッシがS字コーナーでワイドにはらんでしまい、ストーナーにパスされ、ヘイデンに1秒差まで迫られる。
18周目
2位のメランドリがトップのバーミューレンにぴったりと付いている。
19周目
6位のホフマンが5位のヘイデンにプレッシャーをかけている。
雨がさらに強く、水煙が上がる状態になる。
20周目
トップのバーミューレンと2位のメランドリの間が広がり始める。
一時はロッシに差を開けられていたヘイデンが、1秒差に迫る。
22周目
10位を走行していた中野が転倒リタイヤ。
5位ヘイデンが4位ロッシとの差を0.3秒まで縮めてくる。
22周目終了時点のラップ差は以下の通り
クリス・バーミューレン
↓1.1秒
マルコ・メランドリ
↓15.1秒
ケーシー・ストーナー
↓6.1秒
バレンティーノ・ロッシ
↓0.5秒
ニッキー・ヘイデン
↓3.0秒
アレックス・ホフマン
23周目
4位のロッシがコーナーでワイドにはらみ、ヘイデンにパスされる。
一時はペースが落ちていたペドロサが6位のホフマンに追いつく。
ロッシ、ホフマン、ペドロサが5位集団を形成する。
25周目
ペドロサがロッシとホフマンを一気にパスし5位に上がる。
ロッシはホフマンにもパスされ、7位に落ちる。
26周目
ペドロサがヘイデンとの差を1秒に縮めた直後に、ヘイデンが転倒リタイヤ。
最終周
エドワーズが3周遅れになる。もう辛くて見てられない。
バロスが転倒リタイヤ。
バーミューレンが自身の初優勝と、2000年モテギGPでのケニーJr以来、7年ぶりのスズキ優勝を決める。
ル・マンGPの結果
順位 | Rider | トップとのタイム差 | タイヤメーカー |
1 | Chris VERMEULEN | ー | ブリヂストン |
2 | Marco MELANDRI | 12.599 | ブリヂストン |
3 | Casey STONER | 27.347 | ブリヂストン |
4 | Dani PEDROSA | 37.328 | ミシュラン |
5 | Alex HOFMANN | 49.166 | ブリヂストン |
6 | Valentino ROSSI | 53.563 | ミシュラン |
7 | John HOPKINS | 1'01.073 | ブリヂストン |
8 | Loris CAPIROSSI | 1'21.241 | ブリヂストン |
9 | 玉田 誠 | 1 lap | ダンロップ |
10 | Sylvain GUINTOLI | 1 lap | ダンロップ |
11 | Fonsi NIETO | 1 lap | ブリヂストン |
12 | Colin EDWARDS | 3 laps | ミシュラン |
R | Alex BARROS、Kenny ROBERTS JR、Nicky HAYDEN、中野真矢、
Randy DE PUNIET、Toni ELIAS、Carlos CHECA |
年間ランキング
ストーナーがロッシとの差を6ポイント広げた。
ライダーランキング
順位 | ライダー | チーム | ポイント |
1 | STONER Casey | Ducati Marlboro Team | 102 |
2 | ROSSI Valentino | Fiat Yamaha Team | 81 |
3 | PEDROSA Dani | Repsol Honda Team | 62 |
4 | MELANDRI Marco | Honda Gresini | 61 |
5 | VERMEULEN Chris | Rizla Suzuki MotoGP | 55 |
6 | HOPKINS John | Rizla Suzuki MotoGP | 48 |
7 | CAPIROSSI Loris | Ducati Marlboro Team | 38 |
8 | ELIAS Toni | Honda Gresini | 35 |
9 | EDWARDS Colin | Fiat Yamaha Team | 35 |
10 | HOFMANN Alex | Pramac d'Antin | 30 |
11 | HAYDEN Nicky | Repsol Honda Team | 30 |
12 | BARROS Alex | Pramac d'Antin | 27 |
13 | CHECA Carlos | Honda LCR | 20 |
14 | DE PUNIET Randy | Kawasaki Racing Team | 19 |
15 | 中野 真矢 | Konica Minolta Honda | 15 |
16 | GUINTOLI Sylvain | Dunlop Yamaha Tech 3 | 12 |
17 | 玉田 誠 | Dunlop Yamaha Tech 3 | 11 |
18 | NIETO Fonsi | Kawasaki Racing Team | 5 |
19 | JACQUE Olivier | Kawasaki Racing Team | 4 |
20 | ROBERTS JR Kenny | Team Roberts | 4 |
コンストラクターランキング
順位 | コンストラクター | ポイント |
1 | DUCATI | 102 |
2 | HONDA | 89 |
3 | YAMAHA | 81 |
4 | SUZUKI | 71 |
5 | KAWASAKI | 28 |
6 | KR212V | 4 |
MotoMaxのたわごと@ル・マンGP
今回のレースは、ミシュランの負けと言った方が良い。
今更言うまでもないけど、ミシュランはフランスのタイヤメーカーで、今回はフランスグランプリ。ミシュランがタイヤ開発に最も使いやすいサーキットでの開催なのだ。ミシュランとしては、勝って当然というレースなのだけれど、結果は惨憺たるものだった。
完走とリタイヤのタイヤメーカー台数を見るとこうなる。
完走12台中 ⇒ ブリヂストン7台 ミシュラン3台、ダンロップ2台
リタイヤ7台中⇒ ブリヂストン3台(バロス、ドプニエ、エリアス) ミシュラン4台(ロバーツJr、ヘイデン、中野、チェカ)
更に、ロッシのペースダウンも恐らくタイヤが原因だ。(エドワーズの場合にはタイヤだけでなく、判断ミスの方が大きいと思う)。
これはミシュランにとって、受け入れがたい事態だったのではないか。
ル・マンで2007年シーズンも4分の一が終わったのだけれども、残る3分の一はミシュランがどれだけタイヤ性能を向上させられるかが、流れを大きく変えてしまうだろう。
もちろん、今のようにワンメークになる前のMoto GPは、タイヤメーカーがレース結果を決めてしまうようなことが多々あったのだろうが、2007年の最初の5戦は、タイヤメーカーの覇権がミシュランからブリヂストンに移っていく転換期として、とても重要な時期だと思う。
2007年の残り、タイヤメーカーにもこれ以上に注目していきたい。