Moto GPを記録した初の映画「Faster」は、ロッシ、ビアッジ、マッコイ、ホプキンスなどを中心に、GP500からMotoGPへの大改革が行われた2001年から2002年のシーズンを追った作品です。
この映画のサブタイトルは、英語だと”Two wheels, 200mph, Every man for himself(訳:2輪、時速320km、全ては自らのために)"となっていて、日本語のサブタイトルは”最速の遺伝子を持つ者だけに聞こえる交響曲”となっています。
Moto GPという、世界で20人程度しか乗ることを許されない、特別仕様のバイクを操るライダーたちの話を期待するタイトルなのですが、、、
目次
映画「Faster」はドキュメンタリーというより報道
Fasterを始めてみた時には「報道番組みたい」と感じてしまいました。
この映画は良くも悪くも、起こった出来事とそれにかかわった人、報道した人の姿を淡々と切り取っていく。まるで報道番組のようなのです。
ドキュメンタリーに欠かせない、”作り手の主張”があまり感じられないのです。何を伝えたいのかが良く分からないのです。
Moto GPの魅力を伝えたいとか、ライダーが感じていることを伝えたいとか、はたまた裏にあるビッグビジネスの実態を伝えたいとかの意思が、私には感じられませんでした。
この映画を見て、Moto GPを見に行きたいとか、ライダーになりたいと感じる人はあまり居ないのではないでしょうか。
Moto GPファンにとっての魅力も、無いわけではないが、薄いのです。
この映画を見て、今まで以上にMoto GPが好きになったとか、ますますロッシのファンになったとか、そのようなことが起きにくいと感じてしまうのです。
勿論良い場面もあります。レイニーやシュワンツへのインタビューは、客観的で素晴らしいです。
しかし全体としては、この映画は良くも悪くも、起こった出来事とそれにかかわった人、報道した人の姿を淡々と切り取っていく。まるで報道番組のようなのです。
ドキュメンタリーではなく報道だ、というのはそういう意味です。
Fasterは、入門、ロッシvsビアッジ、ホプキンス、の3部構成
Fasterは、オートバイレース世界選手権の最高峰クラスが、GP500という名称からMoto GPへと変わっていった2001年から2002年のシーズンを記録しています。
映画の内容は大きく分けてMotoGP入門、ロッシvsビアッジ、新しいライダーの3部構成となっています。
Moto GP 入門
最初は、MotoGPって何?という方に対しての、基本情報が語られます。
年間の開催レース数や、決勝までの流れなどは、かなりザックリとしか説明されませんが、その分レースの安全対策について時間が割かれています。
バイクのレースって危ないよね! 怖いよね! という一般的な感想に対して、「いやいや実は安全性とかに気を遣っているんですよ」という説明がなされていきます。
更に、マシンに付いての説明が続きます。2ストロークと4ストロークの乗った時の違いが、ライダーの視点から語られるのは興味深いですね。この映画の最初の見どころです。
その他にも、バリーシーンがプロテクターを自作して、ダイネーゼに商品化させた話や、普段は見れないコスタ医師の姿など、Moto GPファンにはたまらないシーンが続きます。
ロッシvsビアッジ
Moto GPについての大まかな説明の後は、2001年のシーズンを通した、ロッシとビアッジの確執が描かれます。
陽のロッシ vs 陰のビアッジ、というステレオタイプ化されたゴシップの意味と、それにかかわる本人たちの姿が取り上げられています。
「ロッシとシュワンツはライディングを楽しむ。レイニーとビアッジにはそれがない」というコメントが印象的でした。
新しいライダー
ロッシvsビアッジという、ベテランライダーの後には、新進気鋭のアメリカ人ライダー、ジョン・ホプキンスがフューチャーされます。
子供のような風体のホプキンスが、Moto GPにデビューするまでを、アメリカドラマに出てくるティーンエイジャーさながらの彼女がサポートしているのが微笑ましいですね。
特典ディスク Faster & Faster が良いぞ!
Fasterには特典ディスクが付いていて、2003年から2004年前半までを記録したFasterの続編「Faster & Faster」、本編に含まれなかったインタビューなどを集めた「Behind the Scene」、レースのオンボード映像を集めた、「Interactive DVD Extras」が収められています。
その中のFaster & Fasterが意外と良いので、ご紹介します。
Faster & Fasterは、GP500が終わりMoto GPが始まった後、つまり「Faster」の後に何が起こったのかを50分にまとめた、短編作品です。
ロッシのホンダからヤマハへの移籍、ドカティの復帰、新マシーンの開発に苦悩するスズキやカワサキの状態などが描かれています。
Fasterとは違って、ロッシのインタビューは殆どなく、セテ・ジベルナウ、ロリス・カピロッシ、トロイ・ベイリスが取り上げられています。
内容はFasterと同じように、事実を淡々と綴っていくのですが、1つだけ違うことがありました。
大二郎の事故死と、チームメイトのジベルナウへのインタビューです。
ジベルナウのインタビューは「ドキュメンタリー」だ
Faster & Fasterでは、加藤大二郎の事故死と、チームメイトだったセテ・ジベルナウの台頭が描かれています。
大二郎が亡くなった1週間後に開かれた、南アフリカグランプリに向けたジベルナウの心の変化、その後の快進撃、ロッシとのバトルでの駆け引きなどが、本人の口からキチンと語られるのです、本編でのロッシへのインタビューが、車を運転しながら行われていたのとは対照的に、ジベルナウへのインタビューは、インタビュアーとキチンと向かい合って行われています。
そのためジベルナウも、一つ一つ丁寧に返答していますし、そして何よりもその表情や声のトーンから、本人の感情が見る側に伝わってくるのです。
これこそがドキュメンタリーだと感じます。
このような場面が本編に少ないのが不思議でした。
バイクの魅力を伝えるむつかしさ
「カレーを食べたことが無い人に、カレーのおいしさを説明するのは無理」と誰かが言っていました。
バイクも同じです。バイクに乗ったことが無い人に、バイクに乗る楽しさを伝えるのはとても難しいし、Moto GPを見たことが無い人に、その魅力さを伝えるのは至難の業です。
そのせいではないでしょうが、「Faster」は最初から、何かを伝えるということを放棄してしまっているように感じます。
だから、バイクレースを見たことが無い人には、殆ど何も伝わりませんし、レースファンにも、大きな感動は与えてくれません。
Moto GPファンなら、この映画を見て2002年~2003年のシーズンを追体験する事は出来ますし、レースの裏側を垣間見ることで、新しい発見をすることも出来るでしょうが、それ以上にはなりません。
恐らくその原因はインタビューの仕方です。中でも車を運転しながら行われたロッシへのインタビューは、大変残念です。
特典ディスクに収められた「Behind the Scene」で、ロッシへのインタビューが始まるシーンが流れるのですが、映画のためのインタビューであることが、撮影が開始される直前に説明されています。そしておもむろに撮影が始まり、ロッシは言われるがままに車を走らせ、質問に答え始めます。
これでは、集中して返答などできないのでは?なぜこんな方法で、ロッシのインタビューを撮ったのでしょう?
様々な理由があるのだとは思いますが、ジベルナウに行ったように、キチンとしたインタビューが撮られていたら、この映画の内容はもう少し違ったものになったと思うのです。
ロッシへのインタビューが難しいなら、ビアッジでも良いですし、チームの監督でも良いでしょう。誰か1人にキチンと焦点を合わせて、1つの視点から1シーズンを追ったとしたら、もっと魅力的なドキュメンタリーになったはずです。
残念ながら、Fasterはレースの魅力を伝える映画ではありませんでした。
記録を淡々と綴った映画です。
映画のデータ
製作年 : 2003年 アメリカ・スペイン合作
監督 : マーク・ニール
ナレーション : ユアン・マクレガー
本編 : 107分