チャンピオンシップの行方を変えた : 2008年第12戦 ブルノ

Moto GP2008年第12戦は、レース前から緊張の面持ちであったストーナーが転倒し、笑顔でグリッドに向かったロッシが勝利するという、前戦ラグナセカGPの影響を想像させる結果となった。

これに加え、ミシュラン勢が軒並み順位を落とし、ブリヂストン勢が上位を独占したことで、2009年からのブリヂストンによるワンメイク化に大きな影響を持った一戦でもある。

ブリヂストン有利のチャンスを逃すまいと奮闘した、トニーエリアスや、中野真矢の活躍が光った。

目次

ブルノGP レース前のTips

開催日 : 2008年8月17日
コンディション : ドライ
気温 : 20℃
路面温度 : 29℃

ストーナーの圧勝 : 2007年のブルノGP振り返り

前年のブルノGPは、ケーシー・ストーナーの一人舞台だった。

ポール・ポジションからスタートしたストーナーは、一度も首位を奪われること無く、周回を重ねた。

前戦の母国アメリカGPで無念の結果となった、2人のアメリカ人ライダー、ホプキンスとヘイデンが会心の走りを見せたものの、ストーナーには全く歯が立たなかった。

  • 1位 ケーシー・ストーナー
  • 2位 ジョン・ホプキンス
  • 3位 ニッキー・ヘイデン

ニッキー・ヘイデンが欠場

レプソルホンダのヘイデンが、サマーバカンス中の負傷を理由に本戦を欠場した。

ヘイデンはXゲームのスーパーモタードにゲスト参加し、セッションでのジャンプから着地した際に右足を強打。骨折こそしなかったが「腱が圧迫していることから、大きな問題になりやすい」との医師の診断を重視し、リスク回避のために欠場することとなった。

ストーナーは6戦連続のポールポジションだが、、、

ストーナーが6戦連続でのポールポジションを獲得したものの、レース前の会見では「ロッシと争うにはもっとハードな戦いが必要」と述べており、パドック内でも緊張の面持ちで過ごしている。これは前戦のラグナセカでの、ロッシとのバトルからの影響だろう。

一方のロッシは、いつものように笑顔でテレビカメラに手を振っていた。ロッシの強さの源は、こんなところにあるのかもしれない。

ペドロサとホプキンスが復帰

第10戦の転倒で左手を骨折したペドロサが、2戦ぶりに復帰。ランキングトップのロッシと31ポイント差、2位のストーナーとは16ポイント差のペドロサが、チャンピオンシップ争いに残るためには、今戦で何としても良い成績を出さなければならない。

膝の半月板損傷で、自国グランプリを欠場したホプキンスも復帰した。ホプキンスはブルノサーキットを得意としていて、前年も2位を獲得している。

 

ミシュラン勢が絶不調

ミシュラン勢が軒並み不調だ。

出走17台のうち、ミシュラン勢最上位の7番グリッドとなったランディ・ドプニエも、FPで2回、予選で1回と、いつも以上に転倒している。

大雨となった予選では、ミシュランの性能低下はさらに酷くなり、ペドロサは12番、ドビチオーゾが14番。ロレンソとトーズランドに至っては、予選通過タイムすら切ることが出来なかったものの、雨天を考慮して何とか最後位と17番グリッドでの出走を認められるという、惨憺たる状況だった。

ブルノサーキットの概要

 

コース全長 : 5,403mブルノサーキットのレイアウト

コース幅 : 15m

コーナー数 : 右8 左6

最長ストレート : 636m

決勝レース周回数 : 22周

総走行距離 : 118.866km

ストーナーが6戦連続でポール : 決勝グリッド

ストーナーが、6戦連続でのポールポジション。ケガから復帰したホプキンスが、3番グリッドとなっている。

また、ミシュラン勢の不調から、デアンジェリスやウエストなど、いつもは中盤から後半にいるライダーが前方にいる。後方からの追い上げを図るライダーにとっては、あまり競り合ったことが無いライダーを抜かないと、上位に上がれないという、難しい状況だ。

Row Grid Rider Team Time
1 1 Casey STONER Ducati Marlboro Team 2'11.657
2 Valentino ROSSI Fiat Yamaha Team 2'12.846
3 John HOPKINS Kawasaki Racing Team 2'12.959
2 4 Chris VERMEULEN Rizla Suzuki MotoGP 2'13.002
5 Alex DE ANGELIS San Carlo Honda Gresini 2'13.352
6 Anthony WEST Kawasaki Racing Team 2'14.064
3 7 Randy DE PUNIET LCR Honda MotoGP 2'14.535
8 中野 真矢 San Carlo Honda Gresini 2'14.718
9 Loris CAPIROSSI Rizla Suzuki MotoGP 2'14.805
4 10 Sylvain GUINTOLI Alice Team 2'14.861
11 Marco MELANDRI Ducati Marlboro Team 2'15.880
12 Dani PEDROSA Repsol Honda Team 2'16.032
5 13 Toni ELIAS Alice Team 2'16.510
14 Andrea DOVIZIOSO JiR Team Scot MotoGP 2'17.632
15 Colin EDWARDS Tech 3 Yamaha 2'20.074
6 16 James TOSELAND Tech 3 Yamaha 2'23.303
17 Jorge LORENZO Fiat Yamaha Team 2'23.701

 

ストーナーとロッシだけが早い : ブルノGPの経過

フロント・ロウの3人は、そつなくスタートするが、1コーナーで3番グリッドのホプキンスが、2番グリッドのロッシの内側に入ったことで、ロッシは3位に後退してしまう。
ストーナーの独走を阻止するには、スタート直後から絡む必要があるロッシにとっては痛い出だしとなったものの、第3コーナーでロッシは早くもホプキンスをパスして2位に戻った。

しかしこの間に首位ストーナーはロッシに1秒の差をつけ、必勝パターンに持ち込む。

ロッシは一刻も早くストーナーに追いつき、プレッシャーを掛けたいのだが、2周目と3周目は1.2秒差、4周目と5周目は1.3秒差と、その差は一向に締まらない。

一方で1周目では1.3秒であった2位のロッシと3位のホプキンスの差は、6周目には11.1秒まで開いた(この時点の3位はバーミューレン)。

ストーナーとロッシだけが、驚異的なペースで周回していた。

ストーナーがまさかの転倒 ロッシは難なくトップに

先行逃げ切りを図るストーナーと、これを追うものの差が一向に縮められないロッシという展開は、7周目に大きく変わった。トップを走っていたストーナーが、S字コーナーの出口で僅かなバンプに前輪を取られ、単独転倒を喫してしまったのだ。

マシンはグラベルを滑走していき、バイクの左側面を大きく損傷。
ストーナーは何とかマシンを走らせ、一旦コースには戻ったものの損傷が激しく、ピットインリタイヤとなってしまった。この瞬間に、ストーナーのチャンピオンへの道はかなり厳しいものとなった。

思わぬ形でトップとなったロッシは、1周ごとのラップタイムを1分57秒台から58秒台に落とし、3位との差を16秒台でキープしながら安定した走行を続け、最終的には2位に15秒差をつけて勝利を獲得した。

トニーエリアス絶好調

このレースで絶好調だったのはトニーエリアス。

予選では振るわず、ストーナーと6秒近い差での13番グリッドからのスタートだったものの、スタート直後からコンスタントに順位を上げ、3周目で8位にアップ。7周目には3位を争っていたドプニエ、カピロッシ、ホプキンスの集団に追いつき、10周目にはこの3人もパスして2位に上がってしまった。

その後エリアスは首位のロッシとほぼ同じ、3位のカピロッシより0.5秒ほど速いラップを刻み続け、2位でフィニッシュした。

ミシュラン勢の不調に助けられた感はあるものの、チャンスを掴む実力はさすが。
エリアスのアグレッシブなライディングフォームは、やはりカッコイイ。
久しぶりに見て熱くなった。

 

エリアスは好調の原因を、第10戦で投入された新パーツのおかげと語っている。
その10戦では12位、11戦では7位であったが、新パーツのセッティングを掴めたのなら、今後の活躍が期待できそうだ。

カピロッシがスズキで初表彰台

3位に入ったのはカピロッシ。

前期まではドカティワークスのライダーだったが、今期からはスズキに移籍。9番グリッドからスタートしたカピロッシは、2周目以降1分59秒台での走行をコンスタントに続けるベテランらしい走りで、移籍後の初表彰台を獲得している。

中野が快走 4位を獲得

中野真矢が今期最上位の4位を獲得した。今戦で中野にはファクトリー仕様のエンジンが提供されている。

雨となった予選では、上手くタイムを上げられずに、8番グリッドからのスタートとなった。決勝でも一時12位まで落ちるも、その後徐々に順位を上げ、残り4周で4位に上がり、そのままゴールした。

ミシュラン勢が絶不調

ミシュラン勢は決勝でも軒並み絶不調だった。

最高位は9位となったドビチオーゾ。年間ランキング4位のロレンソは10位、年間ランキング3位のペドロサに至っては、最下位から2番目の15位となった。

ペドロサは得意のロケットスタートを決め、一旦は6位まで順位を上げたものの、その後は徐々に順位を落とし、4周目に10位、7周目に13位、9周目には最後尾から2番目の15位となってしまい、その後は15位のまま周回を重ねた。

因みに最下位は、ミシュラン勢最速で7番グリッドを獲得したものの、6周目に転倒してしまったドプニエだった。ドプニエは速いライダーなのだが、とにかく転倒が多い。完走すればかなりの確率で10位以内に入れているだけに、勿体無い。

ブルノGPの結果

8位までをブリヂストンが独占している。

順位 Rider トップとのタイム差 タイヤメーカー
1 Valentino ROSSI - ブリヂストン
2 Toni ELIAS 15.004 ブリヂストン
3 Loris CAPIROSSI 21.689 ブリヂストン
4 中野 真矢 25.859 ブリヂストン
5 Anthony WEST 29.465 ブリヂストン
6 Chris VERMEULEN 30.608 ブリヂストン
7 Marco MELANDRI 36.453 ブリヂストン
8 Alex DE ANGELIS 36.750 ブリヂストン
9 Andrea DOVIZIOSO 38.822 ミシュラン
10 Jorge LORENZO 39.573 ミシュラン
11 John HOPKINS 39.610 ブリヂストン
12 Sylvain GUINTOLI 40.892 ブリヂストン
13 James TOSELAND 1'11.490 ミシュラン
14 Colin EDWARDS 1'21.133 ミシュラン
15 Dani PEDROSA 1'37.038 ミシュラン
16 Randy DE PUNIET 1'38.407 ミシュラン
R Casey STONER

 

ポイントランキング

ロッシとストーナーが、25ポイントから50ポイントに広がった。

ライダーランキング

順位 ライダー チーム ポイント
1 Valentino ROSSI Fiat Yamaha Team 237
2 Casey STONER Ducati Marlboro Team 187
3 Dani PEDROSA Repsol Honda Team 172
4 Jorge LORENZO Fiat Yamaha Team 120
5 Andrea DOVIZIOSO JiR Team Scot MotoGP 110
6 Colin EDWARDS Tech 3 Yamaha 102
7 Chris VERMEULEN Rizla Suzuki MotoGP 99
8 Nicky HAYDEN Repsol Honda Team 84
9 中野 真矢 San Carlo Honda Gresini 83
10 Loris CAPIROSSI Rizla Suzuki MotoGP 77
11 James TOSELAND Tech 3 Yamaha 75
12 Toni ELIAS Alice Team 66
13 Alex DE ANGELIS San Carlo Honda Gresini 49
14 Sylvain GUINTOLI Alice Team 42
15 Marco MELANDRI Ducati Marlboro Team 41
16 Randy DE PUNIET LCR Honda MotoGP 40
17 John HOPKINS Kawasaki Racing Team 37
18 Anthony WEST Kawasaki Racing Team 33
19 Ben SPIES Rizla Suzuki MotoGP 10
20 Jamie HACKING Kawasaki Racing Team 5
21 岡田 忠之 Repsol Honda Team 2

 

コンストラクターランキング

ドカティがホンダを抜き2位に上がった

順位 コンストラクター ポイント
1 YAMAHA 266
2 DUCATI 212
3 HONDA 210
4 SUZUKI 128
5 KAWASAKI 63

ミシュラン撤退の決定打?

Motomaxのたわごと

このグランプリの翌戦、第13戦サンマリノGP終了後に、ペドロサのタイヤがミシュランからブリヂストンに変更されることとなった。

本戦では、中野真矢がホンダワークスのエンジンを搭載して走っている。これがブリヂストンタイヤとの相性を確認するための試みであったことは間違いないだろう。

中野はカワサキ時代からブリヂストンタイヤの開発に関わり、2004年のムジェロGPでの時速300kmでのバースト大転倒にもめげず、その5日後のグランプリに届けられた改良タイヤを前に「僕はブリヂストンを信じるので、走ります」と述べた、気骨あるライダーだ。
ブリヂストンとのただならぬ信頼関係を思うと、彼の起用と評価への信頼は当然のことと思う。

結果として、中野はトップから25秒、3位から4秒遅れで4位となった。ところが同じエンジンで、ミシュランを履くペドロサは15位だった。この結果がホンダワークスとペドロサの背中を押したのは確実と思う。

恐らくこの時期、どのライダーもブリヂストンに鞍替えしたかったのではないか。

ブリヂストン側にもキャパシティというものがあるので、そう簡単に受け入れられるものではないが、名門レプソルホンダへのタイヤ供給は、WGP参入時からのブリヂストンの悲願でもあったので、ペドロサへの供給に踏み切ったのではないかと思う。

更にこのレースから7ヶ月後、2009年の第1戦からMoto GPはブリヂストンのワンメークとなったことからしても、このグランプリは2008年末から話題となっていた、ワンメイク化論争の決定打となったのかもしれない。

 

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