ロッシ vs ストーナーの歴史に残るバトル : 2008年第11戦 ラグナセカ

Moto GP2008年第11戦のラグナセカGPはロッシ vs ストーナーの歴史的名勝負として、今でも公式HPやYoutubeで取り上げられている。

ロッシとストーナーは1周目から闘志むき出しのバトルを繰り広げ、その争いは24周目まで続いた。

このレースの凄さは、レース内容だけではない。レースの裏にはロッシの怖さ、勝負強さ、そして重要な一瞬でロッシに味方する運が働いているのがとても良く分かるのだ。

MotoGPデビュー以来、ロッシのプレッシャーにびくともしなかったストーナーだが、この一戦を機にロッシの魔術に毒されてしまったように感じる。

2008年だけではなく、MotoGP史上見逃せない1戦。

 

目次

ラグナセカGP レース前のTips

開催日 : 2008年7月20日
コンディション : ドライ
気温 : 21℃
路面温度 : 34℃

バーミューレンが覚醒 : 2007年のラグナセカ振り返り

前年のラグナセカは、1週間前のザクセンリンクで好調だったアメリカ人ライダー、ヘイデンとホプキンスの活躍が期待された。しかし1周目の第2コーナーでその2人が接触し、共に順位を大きく落としてしまう。

この波乱の幕開けをものともせず、予想を上回るペースを刻み続けるストーナーに食らい付いて行ったのは、レインマスターことバーミューレンだった。

バーミューレンがドライでも強いことを証明した、印象深いレース。

  • 1位 ケーシー・ストーナー
  • 2位 クリス・バーミューレン
  • 3位 マルコ・メランドリ

ストーナーに勝つには、30秒早くスタートするか、拳銃で打ち抜くかしかない

この頃のストーナーは、他のライダーがレース前にさじを投げてしまうほど好調で、ラグナセカでも5戦連続でのポールポジションとなった。その上、前年のレコードを1.5秒も塗り替えてのポールだ。

報道陣から「ストーナー対策はある?」と聞かれたロッシは「ストーナーに勝つには、30秒早くスタートするか、拳銃で打ち抜くかだね」と返答している。

ミシュランがキツイ

ミシュラン勢が軒並み苦戦している。コンパウンドが硬すぎてタイヤ温度が上がらず、グリップしないのがその理由。
少しでも温度を上げようと、スリックタイヤに自ら溝を切り込むライダーも見られた。

ペドロサとホプキンスが欠場

前回の転倒で左手を骨折したペドロサが欠場。 ペドロサは最後まで出場を目指したが、決勝前日の朝に欠場を決定している。
自国GPを迎えたホプキンスも膝の半月板損傷で欠場となった。DVDでは解説者として、ライダー目線の興味深い解説を行っている。

ラグナセカ : 1つのコーナーがこれほど有名なサーキットは無い

ラグナセカの第8コーナー、別名コークスクリュー。恐らくこれ以上に有名なコーナーは無いのではないか。

コーナーに向かって坂を上っていき、頂点に届くと同時に「下る」というよりも「落ちる」ようにコークスクリュー(コルク栓  抜き)さながらに右に回り込むその様は、まるでジェットコースターのようだ。

 

コース全長 : 3,671mラグナセカのレイアウト

コース幅 : 10m

コーナー数 : 右4 左10

最長ストレート : 780m

決勝レース周回数 : 30周

総走行距離 : 110.13km

ストーナーが5戦連続でポール : 決勝グリッド

ストーナーが5戦連続でのポールポジション。ヘイデンが第7戦カタルニアGP以来、4戦ぶりのフロントロウを獲得している。今季好調のエドワーズはミシュラン不調のあおりを受け、今期初の3列目となった。

 

Row Grid Rider Team Time
1 1 Casey STONER Ducati Marlboro Team 1'20.700
2 Valentino ROSSI Fiat Yamaha Team 1'21.147
3 Nicky HAYDEN Repsol Honda Team 1'21.430
2 4 Jorge LORENZO Fiat Yamaha Team 1'21.636
5 James TOSELAND Tech 3 Yamaha 1'21.848
6 Randy DE PUNIET LCR Honda MotoGP 1'21.921
3 7 Colin EDWARDS Tech 3 Yamaha 1'21.947
8 Chris VERMEULEN Rizla Suzuki MotoGP 1'21.971
9 Andrea DOVIZIOSO JiR Team Scot MotoGP 1'21.974
4 10 Toni ELIAS Alice Team 1'21.999
11 Loris CAPIROSSI Rizla Suzuki MotoGP 1'22.039
12 中野 真矢 San Carlo Honda Gresini 1'22.092
5 13 Ben SPIES Rizla Suzuki MotoGP 1'22.127
14 Sylvain GUINTOLI Alice Team 1'22.719
15 Marco MELANDRI Ducati Team 1'22.957
6 16 Alex DE ANGELIS San Carlo Honda Gresini 1'23.035
17 Jamie HACKING Kawasaki Racing Team 1'23.309
18 Anthony WEST Kawasaki Racing Team 1'24.525

 

ロッシとストーナーから目が離せない! : ラグナセカGPの経過

ポールポジションのストーナーと、2番グリッドのロッシが良いスタートを切るが、コーナーへの進入速度が圧倒的に速いストーナーがホールショットを奪う。3番グリッドスタートのヘイデンが、上手いコース取りで1コーナーへの進入でロッシの前に出るが、2コーナーではロッシにインを付かれて、3位に戻ってしまう。

9番グリッドのドビチオーゾも良いスタートを切り、一気に4位に上がっている。

ロレンソが、4位のドビチオーゾのパスを試みた際にハイサイドを起こし、バイクから放り出されてグラベルに突っ込む。直ぐに立ち上がるも左足を押さえていて、そのままリタイヤとなる。

コークスクリューへの進入で、ロッシがストーナーをパスしてトップに立つ。

2周目

ロッシとストーナーのペースが速く、3位のヘイデンとの差が開き始めている。

3周目

最終コーナーの立ち上がりで、ストーナーがロッシの背後にピタリと付ける。

4周目

1コーナーでストーナーがロッシをパスし、首位に戻る。

ストーナーの方が、コーナーでのライン取りがエイペックスに近く、うまく曲がれているようだ。

5コーナーでロッシがストーナーのインを付いてのパッシング。ストーナーは車体を起こして衝突を回避したため2位に後退する。

ストーナーがコーナー立ち上がりでアウトサイドからロッシをパスするが、ロッシは続くコークスクリュー進入でストーナーのインを付き、再度トップに立つ。

1周目と同じ抜き方だ

ロッシはコークスクリューへの進入が早すぎたようで、ラインを外してダートを走行してしまう。なんとか転倒を回避しコースに戻るが、ストーナーと接触しそうになり、ストーナーが慌てて回避する。

このショートカットルートは4輪での死亡事故の原因となったため、4輪では禁止されていた危険なコース取りだ。

ロッシはこの一戦でストーナーの勢いを止めるべく、なりふり構わない走りをしている!

5周目

ロッシとストーナーは揃ってスタートラインを通過し、1コーナー進入で再びストーナーが前に出る。

 

5コーナーでロッシが首位にたち、そのままコークスクリューもトップで通過する。

コークスクリュー通過後のコーナーでストーナーのマシンが一瞬振られた

ストーナーもギリギリの走りでロッシを攻めている!

 

6周目

5周目最後にマシンが振られたためか、ストーナーはロッシの背後に付く作戦に切り替えたようで、ロッシを追走している。

 

7周目

ヘイデン、バーミューレン、ドビチオーゾが3位争いを繰り広げているが、先頭の2台からは5秒離れている。

 

8周目

ストーナーが最速タイムを記録。ロッシのパッシングを狙う動きを見せ始めている。

 

9周目

バーミューレンが3位に上がる。2位とは8秒差。

 

ストーナーはロッシにピタリと付いているものの、コーナー立ち上がりでマシンが振られることがあるギリギリの走行。ロッシの方が安定している。

ストーナーがサーキットレコードを記録

 

10周目

9位走行中のメランドリがコースアウト。転倒は免れ、レースには復帰したが、最下位に落ちてしまう。

メランドリが10位以内を走行するのは久しぶりだった。
前年は3位となったラグナセカで、復活のキッカケを掴みかけていたのに、実に勿体ない!

11周目

ストーナーはロッシの横に入り込もうとするが、なかなかうまくいかない。

12周目

12周目に入った時点での、上位陣のタイム差は次の通り。

ロッシ
↓ 0.07秒
ストーナー
↓ 10.4秒
バーミューレン
↓ 1.5秒
ヘイデン
↓ 0.7秒
ドビチオーゾ
↓ 3.2秒
トーズランド

 

14周目

ホームストレートでストーナーがロッシをパスしてトップに返り咲くが、続く1コーナーで止まりきれずに大回りとなり、ロッシに1位を譲り渡してしまう。
これにより、ストーナーとロッシの差が0.9秒に広がる。

 

16周目

ストーナーがロッシとの差を挽回し、背後に付きはじめている。

17周目

ストーナーがロッシに追いつく。

17周目に入った時点での、上位陣のタイム差は次の通り。

ロッシ
↓ 0.2秒
ストーナー
↓ 14.9秒
バーミューレン
↓ 3.9秒
ヘイデン
↓ 0.3秒
ドビチオーゾ
↓ 3.1秒
トーズランド

12周目から17周目までの5周の間に、2位ストーナーと3位のバーミューレンの差が4.5秒も開いている。

そのバーミューレンも4位のヘイデンとの差を2.4秒開いているので、バーミューレンが遅れているのではない。

ロッシとストーナーだけが、異常なペースで周回している!

 

19周目

最終コーナーでストーナーがロッシに仕掛ける。

20周目

ストーナーは1コーナーでのパスを試みるが、ロッシもブレーキングを生かし、これを阻止する。

 

最終コーナーでストーナーが再びロッシに仕掛ける

 

21周目

ストーナーは1コーナーでのパスを試みるが、またもロッシにブロックされる。

ストーナーはロッシをパスしたいが、残り周回数を考えると、14周目のようなミスを犯すわけにはいかない。
実に難しい選択を迫られているはずだ。

ドビチオーゾがヘイデンをパスして4位に

 

24周目

ホームストレートでストーナーがロッシに並ぶ。

ストーナーは限界まで頭を下げ、少しでも速度を増そうとしている!

ストーナーは1コーナーのアウト側からロッシを試みるが、2コーナーの進入までに抜ききることが出来ない。
その結果ロッシは2コーナーのイン側のラインを取る事に成功し、ストーナーは大回りせざるを得なくなり、パッシングは失敗に終わる。
しかし続く左コーナーでロッシがイン側を守ったために、それに続く右コーナーでストーナーがインを取る事となった。
インを取ったストーナーはタイヤ半分ほどロッシの前に出るも、ロッシはアウト側から加速し、ストーナーを抜かせない。

このレース一番の見せ場!
解説のホプキンスも思わす歓声を上げていた。ストーナーはここ5周ほどで練りに練ったパッシングプランを封じられてしまった。残りは9周。どうする?ストーナー?

車載映像にロッシの後輪が映る。タイヤエッジはかなり荒れていて、限界が近いように見える。

 

最終コーナーでストーナーが路面のバンプに乗り上げ、後輪が浮いてしまい、曲がり切れずにグラベルに進入してしまう。
そのままコースに戻れるかと思われたが、コース脇でまさかの転倒!

直ぐにバイクを起こし、そのままレースに復帰する。順位は2位のまま。

 

25周目

25周目に入った時点での、上位陣のタイム差は次の通り。

ロッシ
↓ 13.8秒
ストーナー
↓ 4.9秒
バーミューレン
↓ 8.5秒
ドビチオーゾ
↓ 0.4秒
ヘイデン
↓ 0.9秒
ドプニエ

いつの間にかドプニエが6位に!?

ストーナーが転倒するまでの25周、カメラはずっとトップ2人ばかり映していて、他のライダーは殆ど映らなかったため、3位以下の変動はほとんど分からないのです。

それほど、ロッシとストナーの走りは息も付かせぬものだった!

 

29周目

29周目に入った時点でもロッシとストーナーの差は14秒ある。さすがのストーナーも2位キープの走りに切り替えている。

 

最終周

ロッシとストーナーの差は14秒で変わらず。3位のバーミューレンもストーナーには14秒差もありこのままフィニッシュとなる。

 

ラグナセカGPの結果

壮絶なバトルの結果ロッシに敗れたストーナーは、インタビューで「行き過ぎたパッシングが有った。もう少しクリーンであれば良かった」と語っている。

 

 

順位 Rider トップとのタイム差 タイヤメーカー
1 Valentino ROSSI - ブリヂストン
2 Casey STONER 13.001 ブリヂストン
3 Chris VERMEULEN 26.609 ブリヂストン
4 Andrea DOVIZIOSO 34.901 ミシュラン
5 Nicky HAYDEN 35.663 ミシュラン
6 Randy DE PUNIET 37.668 ミシュラン
7 Toni ELIAS 41.629 ブリヂストン
8 Ben SPIES 41.927 ブリヂストン
9 James TOSELAND 43.019 ミシュラン
10 中野 真矢 44.391 ブリヂストン
11 Jamie HACKING 46.258 ブリヂストン
12 Sylvain GUINTOLI 55.273 ブリヂストン
13 Alex DE ANGELIS 55.521 ブリヂストン
14 Colin EDWARDS 1'02.380 ミシュラン
15 Loris CAPIROSSI 1'08.207 ブリヂストン
16 Marco MELANDRI 1'10.962 ブリヂストン
17 Anthony WEST 1 lap ブリヂストン
R Jorge LORENZO

 

ポイントランキング

ロッシには敗れたが、ペドロサの欠場もあり、ストーナーが2位に浮上した。

ライダーランキング

順位 ライダー チーム ポイント
1 Valentino ROSSI Fiat Yamaha Team 212
2 Casey STONER Ducati Marlboro Team 187
3 Dani PEDROSA Repsol Honda Team 171
4 Jorge LORENZO Fiat Yamaha Team 114
5 Andrea DOVIZIOSO JiR Team Scot MotoGP 103
6 Colin EDWARDS Tech 3 Yamaha 100
7 Chris VERMEULEN Rizla Suzuki MotoGP 89
8 Nicky HAYDEN Repsol Honda Team 84
9 James TOSELAND Tech 3 Yamaha 72
10 中野 真矢 San Carlo Honda Gresini 70
11 Loris CAPIROSSI Rizla Suzuki MotoGP 61
12 Toni ELIAS Alice Team 46
13 Alex DE ANGELIS San Carlo Honda Gresini 41
14 Randy DE PUNIET LCR Honda MotoGP 40
15 Sylvain GUINTOLI Alice Team 38
16 John HOPKINS Kawasaki Racing Team 32
17 Marco MELANDRI Ducati Marlboro Team 32
18 Anthony WEST Kawasaki Racing Team 22
19 Ben SPIES Rizla Suzuki MotoGP 10
20 Jamie HACKING Kawasaki Racing Team 5
20 岡田 忠之 Repsol Honda Team 2

 

コンストラクターランキング

順位 コンストラクター ポイント
1 YAMAHA 241
2 HONDA 197
3 DUCATI 192
4 SUZUKI 112
5 KAWASAKI 52

ロッシの魔術がついにストーナーを捉えたか?!

Motomaxのたわごと

ストーナーはレース後の記者会見で「行き過ぎたパッシングがあった。もう少しクリーンであれば良かった」と語っている。

確かにロッシのパッシングは強引で、ストーナーが回避しなければ衝突していた場面が2回もあったので、ストーナーの苛立ちも理解は出来る。

しかしここで怒ってしまっては、2005年第1戦のジベルナウと同じ状態になってしまう。

ロッシと壮絶なバトルを繰り広げたジベルナウは、最終コーナーでのロッシの無理なパッシングでグラベルに押し出されて転倒。慌ててレースに復帰し、何とか2位を死守した。ジベルナウはパルクフェルメから怒りをあらわにし、ロッシに詰め寄っている。

この時のロッシの走りは、レースディレクションが入ってもおかしくないものだったが、違反の判断は下されず、ロッシの優勝が確定した。

この一件でジベルナウは精神の均衡を失い、その後長くづくスランプに落ちていってしまったのだ。

この辺がロッシの怖いところだ。ここぞという重要な1戦では、違反ギリギリの走りを用いてでも相手を徹底的に叩く。そして相手の心の中に小さな種を植えてしまう。「ひょっとしたらロッシには勝てないんじゃないか?」という不安の種だ。

 

MotoGPへの昇格後、ロッシからのプレッシャーに全く動じなかったストーナー。

ジベルナウや、ビアッジには効いたプレッシャーをものともしなかったストーナーだが、ついにロッシの術中にはまったように見える。

ストーナーのインタビューを見ていて、心の中に種を植えられてしまったように感じた。

ロッシ恐るべし、である。

 

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