トルコGPの圧倒的勝利から、ケーシー・ストーナーへの注目度が一気に上がっているのが、画面を通じてでも十分に伝わってくる。
ロングストレートが2本もある上海サーキットは、もともとストーナーが乗るドカティに有利であるという側面もあるが、それ以上に前戦でストーナーが見せつけた、圧倒的な走りが、ストーナーを一気に2007年GPの優勝候補に押し上げたのだろう。恐らくトルコ戦から上海戦までの2週間は、「ストーナーの走りは見たか?」「あれはロッシより上だ!」「いやいや、あれはストーナーが凄いんじゃなくて、ドカティとブリヂストンの性能が優れてるからだ」なんて会話がそこらじゅうで交わされたはずだ。
しかし当のストーナーは、そんなプレッシャーをものともせず、上海でもトップを走った。王者ロッシが背後に付いてもストーナーは全く動じない。セテ・ジベルナウにはあれほど効いた、ロッシの「プレッシャー作戦」が、僅か21歳のストーナーには全く通じない。困ったロッシはストーナーを攻略すべく、ありとあらゆる策を打っていくのだが、、、
目次
レース前のTips
開催日 :2007年5月6日
コンディション : ドライ
気温 : 23℃
路面温度 : 32℃
2006年の上海GP
2006年の上海GPは新人ライダーであるダニ・ペドロサが、まさかの4戦目でのポール・トゥ・ウィン。初戦から新人とは思えない走りを見せていたペドロサだが、まさか4戦目で初勝利を挙げるとは!誰も想像していなかっただろう。
1位 ペドロサ、2位 ヘイデン、 3位 エドワーズ
ストーナーを止めるには銃が必要だ
上海サーキットは長いストレートが2本もある。ホームストレートが900m、バックストレートは1.175mもある。モテギのダウンヒルストレートが762mなので、上海のホームストレートでもモテギより138m、バックストレートならば413mも長い。この特徴から、第2戦が行われたカタール同様に、パワーで勝るドカティに有利なコースと言われている。
事実、ロッシは予選後のインタビューで「ドカティの最高速を見た時には泣きそうになった」と答えている。
これに加え、前戦トルコGPで2位に6秒も差をつけて優勝したストーナーは絶好調である。
そのストーナーに付いて、ロッシはこう言ったらしい。
「ストーナーを抑えるには銃が必要だ」
ミシュランがマズイ
前戦トルコGPで、ロッシはレース中盤まで3位を走行していた。ところが15周目から急にペースダウンし、僅か2周の間に5つも順位を落としている。その後も順位は下がり続け、結局は10位でフィニッシュした。
車載映像で、ボロボロになったロッシの後輪が映されたが、レース後のチェックでリアタイヤのカーカス(ゴムの内側にある、タイヤの形状と強度を保つ繊維部品)が破損していたことが分かった。
ミシュランはこの点を改良したタイヤを上海に持ち込んでいるが、果たしてどの程度機能するだろうか?
それでもロッシは速い
ドカティに有利なサーキットレイアウト、不安の残るミシュランタイヤ、銃で撃ち殺したくなるストーナー、という3つの不安要素を抱えていても、予選で圧倒的な速さを見せたのはロッシだった。しかも2位と0.9秒もの差をつけたポール獲得である。これは4ストローク車導入後(WGPからMoto GPに変更されて以降)最も大きな差のだとか。
ロッシって魔法使いなんだろうか?
オリビエ・ジャックが欠場
Kawasaki Racing Teamのオリビエジャックが、フリー・プラクティス中の転倒により、腕をケガを負い欠場となっている。オリビエは次戦のル・マンも欠場し、イタリアGPで復帰した。
上海サーキットの概要
コース幅 : 14m
コーナー数 : 右7 左7
最長ストレート : 1,202m
決勝レース周回数 : 22周
総走行距離 : 116.182km
上海GP 決勝のグリッド
Row | Grid | Rider | Team | Time |
1 | 1 | Valentino ROSSI | Fiat Yamaha Team | 1'58.424 |
2 | John HOPKINS | Rizla Suzuki MotoGP | 1'59.315 | |
3 | Colin EDWARDS | Fiat Yamaha Team | 1'59.406 | |
2 | 4 | Casey STONER | Ducati Marlboro Team | 1'59.516 |
5 | Dani PEDROSA | Repsol Honda Team | 1'59.602 | |
6 | Marco MELANDRI | Honda Gresini | 1'59.863 | |
3 | 7 | Randy DE PUNIET | Kawasaki Racing Team | 1'59.985 |
8 | Alex BARROS | Pramac d'Antin | 2'00.052 | |
9 | Nicky HAYDEN | Repsol Honda Team | 2'00.087 | |
4 | 10 | 中野 真矢 | Konica Minolta Honda | 2'00.157 |
11 | Alex HOFMANN | Pramac d'Antin | 2'00.175 | |
12 | Toni ELIAS | Honda Gresini | 2'00.205 | |
5 | 13 | Carlos CHECA | Honda LCR | 2'00.319 |
14 | Loris CAPIROSSI | Ducati Marlboro Team | 2'00.369 | |
15 | Chris VERMEULEN | Rizla Suzuki MotoGP | 2'00.680 | |
6 | 16 | Kenny ROBERTS JR | Team Roberts | 2'00.763 |
17 | Sylvain GUINTOLI | Dunlop Yamaha Tech 3 | 2'01.157 | |
18 | 玉田 誠 | Dunlop Yamaha Tech 3 | 2'01.178 |
上海GP レースの経過
フロント・ロウの3人が揃って良いスタートを切り、ホールショットはジョン・ホプキンスが。これにバレンティーノ・ロッシとコーリン・エドワーズが続いた。
トニー・エリアスがニッキー・ヘイデンに追突し、アレックス・バロスを巻き込んで転倒。ヘイデンは転倒を免れたものの、芝生にコースアウトし、16位まで落ちてしまう。バロスは、最下位でレースに復帰。
ロッシがホプキンスをパスし、トップに上がる。
ケーシー・ストーナーは、バックストレート直前まで4位を走っていたが、バックストレートに入った途端、エドワーズとホプキンスを一気にパスして2位に上がる。ストーナーのコーナー立ち上がりは、とにかく凄い。1台だけ、別クラスのバイクが走っているように見える。
2周目
ストーナーがロッシをパスしてトップに立つ。順位はストーナー、ロッシ、ホプキンス、マルコ・メランドリ、エドワーズ、ダニ・ペドロサ。
ヘイデンは16位を走行している。
メランドリがホプキンスとロッシを続けてパスし、2位に上がる。
3周目
ロッシがメランドリをパスするが、直ぐに抜き返される。
11位を走っていた玉田が、コーナーリングで10位の中野に突っ込んでしまい、両者転倒リタイヤ。
5周目
ロッシがメランドリをパスし、2位に上がる。
6周目
ロッシがストーナーに追いつく。
ホプキンスがメランドリをパスし2位に上がる。
7周目
ロッシはストーナーにプレッシャーを掛けつつ走行するが、ストーナーは全く動じない。
8周目
ロッシがストーナーをパスし、首位に立つ。ロッシはバックストレート後のコーナーでブレーキを遅らせ、ストーナーのパスを防ごうとするも、アウトにはらんでしまい、ストーナーにイン側からパスされてしまう。
9周目
ロッシがストーナーのパッシングポイントを探っている間に、ホプキンスがロッシとの差を0.3秒まで詰めてくる。
ペドロサがメランドリをパスし、4位に上がってくる。
11周目
コーナーリングセクションで、ロッシがストーナーをパスするが、ストーナーはバックストレートで抜き返す。
12周目
ロッシは再度連続コーナーでストーナーをパスし、トップに立つものの、バックストレートでストーナーがトップに戻る。ロッシは周回ごとにラインを変え、ブレーキングポイントを変え、抜いた後のブロックラインを変えるが、直線に入るとストーナーにいとも簡単に抜き返されてしまう。
13周目
ストーナーのタイムが上がり始める。
14周目
3位のホプキンスが徐々に2位にロッシに近づいてくる。
15周目
ストーナーのリアがスライドし始める。
16周目
ストーナーが更にペースアップ。上位3台(ストーナー、ロッシ、ホプキンス)のペースが速く、4位のペトロサはホプキンスの6秒後を走行している。
ロッシがバックストレートの出口ギリギリまで、ストーナーのスリップストリームに留まり、コーナー進入直前でのパスを試みるが、止まり切れずにコース脇の芝生まで出てしまう。その間にホプキンスが2位に上がる。ロッシは何をやっても、ストーナーに手が出ない状態。
17周目
1位ストーナーと2位ホプキンスの差は1.2秒、2位ホプキンスと3位ロッシが1.4秒差、3位ロッシと4位ペドロサが5.5秒差。
18周目
ロッシがホプキンスをパスし、2位に上がる。
19周目
ホプキンスがロッシに迫るが、パスまでは出来ない。
22周目
ホプキンスがロッシから離されてしまう。既に順位は決定した感。
最終周
順位変動なく、フィニッシュ。
上海GPの結果
順位 | Rider | トップとのタイム差 | タイヤメーカー |
1 | Casey STONER | ー | ブリヂストン |
2 | Valentino ROSSI | 3.036 | ミシュラン |
3 | John HOPKINS | 6.663 | ブリヂストン |
4 | Dani PEDROSA | 14.090 | ミシュラン |
5 | Marco MELANDRI | 17.276 | ブリヂストン |
6 | Loris CAPIROSSI | 26.256 | ブリヂストン |
7 | Chris VERMEULEN | 26.591 | ブリヂストン |
8 | Randy DE PUNIET | 27.025 | ブリヂストン |
9 | Alex HOFMANN | 28.108 | ブリヂストン |
10 | Carlos CHECA | 32.957 | ミシュラン |
11 | Colin EDWARDS | 35.053 | ミシュラン |
12 | Nicky HAYDEN | 37.327 | ミシュラン |
13 | Sylvain GUINTOLI | 50.705 | ダンロップ |
14 | Alex BARROS | 55.264 | ブリヂストン |
15 | Kenny ROBERTS JR | 57.736 | ミシュラン |
R | 中野 真矢、玉田 誠、Toni ELIAS |
MotoMaxのたわごと@上海GP
07年上海グランプリはストーナー一色。
ストーナーって何物?
ケーシー・ストーナー。デビューはこのグランプリの前年。デビューの年は、その猛烈なスタートダッシュしか印象に残らなかった。なにせ3列目くらいからでも、楽々トップ集団に入ってしまうほどだから。でも、すぐ転ぶ。年17戦のうち10戦しか完走できていない。
そのストーナーが、2年目で早くもドカティのファクトリ―・チームに入った。ジベルナウの後任で、カピロッシのチームメイトだ。ちょっと信じられないが、ペドロサがデビューからレプソル・ホンダに入って、4戦目で優勝してしまったことを考えると、2005年にMoto2でしのぎを削っていた、ペドロサとストーナーのレベルが、飛びぬけて凄かったという事なのだろう。
そのストーナーが、2年目には転ばなくなった。走りも全く危なげが無い。ロッシを引き連れて走っても、全く動じない。
まだ21歳なのに。
ストーナーはこの年の1月に結婚し、奥さんをパドックガールとして連れて歩いている。とにかくカワイイ奥さんだ。
公私ともに充実している、という事なのだろうか?
それにしても21歳なのだ。21歳で結婚生活も仕事も完璧にこなせる、なんてことがあるんだろうか?しかも仕事上のライバルは、世界チャンピオン5回の男で、去年と違うバイクとタイヤで走っているのに。
このころのインタビューで、ストーナーはこう語っている。
「全力で走るのをやめた」
このセリフ、どっかで聞いたことがあると思ったら、マルケスだった。転倒ばかりしていた2015年と、1回しかリタイヤしなかった2016年の違いを聞かれた時の返事だ。
今(2020年)ストーナーは35歳だ。もうさすがにMoto GP復帰という話は出なくなったけど、イタリアのプレスなんかは今だに「マルク・マルケスとケーシー・ストーナーを一緒に走らせたらどっちが勝つか?」なんて言っている。2014年にMoto GPを見始めた自分には、この質問の本当の意味が良く分かってなかったのだなと、この中国GPを見終わって思った。
ケーシーvsマルケス 確かに見たい。